『本当の自分』


〜前回までのあらすじ〜

 僕、山野 景一(やまの けいいち)は小学生の頃イジメにあっていた。

 そんな時、国から手紙が届きアルファーだと言うことが解ったのだ。

 僕に与えられた能力は『幻影』、あたりに何でも映し出すことができた。

 そして、今アルファーの学園に通う僕は、その能力で自分自身に幻影を投影し、格好いい自分役を演じ続けていた。

 そんなある日、クラスでも目立たない存在の城山美保(しろやま みほ)が話しかけてきた。

 そう、彼女は僕が能力を使い続けている事を知っていたのだ。

 そして、小学生の頃僕たちがクラスメイトだった事、彼女の能力が『無効』であることを知り、僕は初めて能力を使わずに登校する事を決意したのだった。




後編 〜踏み出した一歩〜



 僕はその日、能力を使わずに初めて登校していた。

 流石に、能力を使い続けている時と比べて、凄く肩が軽い。

 やはり、そう言う意味でも自然の方が良いのかもしれない。

 それにしても、この伸び放題になった髪の毛は少し格好悪い気がする。

 朝、風呂に入って自分自身の手入れに全く気を入れてなかったことに少し恥ずかしさを覚えていた。

 それでも、能力を使わないこの姿で、登校しているのだから、自分自身で気がつかないくらい強い決断を下していたらしい。

 現に、髪が気になるくらいで能力を使おうとも思わないし、クラスの皆に真実を話すこともそこまで怖くなかった。

 やはり、ここまで僕が変わることができたのも、城山美保(しろやま みほ)ちゃんのおかげだと思う。

 今日あったら絶対お礼を言おうと思っていた。

 そうこうしているうちに、もう学園に着いていた。

 靴を履き替え、教室を目指そうとした時、あることに気がついた。

 そうだ、僕が能力を使い続けている事はクラスの担任の先生も知らなかった。

 まずは、担任の先生に知らせる方がよいと考えた僕は、とりあえず職員室に向かうことにした。

 職員室に向かうとなると今いる下駄箱からだと、中等部を抜けていくのが一番早い。

 そこで僕は中等部を抜けて職員室へ向かった。

 僕が中等部のある廊下を歩いていると、三人の男子生徒が固まって何かをやっている。

 よく見ると一番小さな男子生徒を、他の男子生徒二人が能力で操っていると思われる炎が取り囲んでいた。

「やっやめてよ〜」

 弱々しく話す小さな男子生徒。

「ふっ!どうせ、あんまり痛くないだろ!」

「へっ!そうだ、生意気に逆らうな!」

 二人の男子生徒は笑いながら答えた。

 とにかく、このまま放っておくわけにはいかない。

 僕は二人を止めに入った。

「君たち、弱い物イジメは辞めにろ、そんな事したら危ないじゃないか!」

「は?」

 そんな事を言いながら二人の男子学生はこちらを向いた。

 意識が集中できなくなったのか、小さな男子生徒を取り囲んでいた炎は消えた。

「なんだ、お前?」

「おい、こいつむかつくから、燃やしちゃおうぜ!」

「そうだな・・・ひひっ」

 そう言って、二人の男子生徒は僕の言葉を聞くことなく、今度は僕にターゲットを変える。

 二人のうちの一人がまずは手の平に小さな炎を起こした。

 そしてもう一人がその炎を指さしどんどんと大きくしている。

 なるほど、一人が炎を起こす能力の持ち主で、もう一人が炎を操る能力の持ち主なわけだ。

 本来、アルファーが見ず知らずのアルファーとこのような状態になった時、一番怖いのは自分の能力を知られてしまう事だ。

 つまり、単純に考えて能力を先に知られた方はその対策をとられてしまうと言うことだ。

 まあ、その辺りのおごりや、基礎がなっていない所がまだまだ中学生と言ったこと頃だ。

 とにかく、炎が来てしまっては、こちらとしても困る、早めに対策をうつとする事にした。

 僕は能力を使い彼らの前に校長先生の幻影を映し出した。

「こら!君たち学園内で何をしている!」

 幻影は男子生徒達を注意する。

「え!校長!」

 男子生徒は驚いて逃げていくが、思わずコントロールしていた炎がこちらに飛んできてしまう。

 しまった、これは計算外だ・・・

 思わず、僕は目を瞑った。

 しかし、僕の目の前で炎がぱっと消えてしまう。

「え?」

 どういう事だ?

 しかし、その理由はすぐに解明する。

「大丈夫?」

 そこには城山美保ちゃんがそこにいたのだ。

 つまり、彼女の力で炎は無効にされ消えたわけだ。

「ふ〜、助かったよ・・・」

「いいのよ、それにお礼を言わなきゃいけないのはこっちなのよ」

 そう良いって美保ちゃんはさっきまでいた小さな男子生徒の頭をこつんと叩いてた。

「え?どういう事?」

「実は、この子私の弟なの・・・ごめんなさい」

 そう言いながら小さな男子生徒の頭をぐいぐいとおして無理矢理男の子を謝らせた。

「ほら、正(しょう)も謝りなさい・・・」

「うっ・・・ごめんなさい」

 正と言われた美保ちゃんの弟さんも謝った。

「いやいや、気にしないで、それに、僕も助けてくれて僕もありがとう」

 そんなこんなで、お互い謝りこの場は解決した。

 そして、正君別れた後、僕と美保ちゃんは話しながら歩き始めた。

 僕は正君を助けるにいたるまでの経歴を話し、美保ちゃんも丁度職員室の隣にある資料室に用があったらしいので、僕の前を通りかかったというわけだ。

「それにしても、能力を使わないで、学校に来ることにしたのね」

「まあ、色々考えて、その方が良いと思って・・・」

「私も良いと思うよ」

「ありがとう・・・」

 そんな話をしていると、職員室の前にやってきていた。

「頑張ってね・・・」

 そんな、優しい言葉を書けてくれる美保ちゃんに、僕は軽く手を振って答えると職員室へ入っていた。



 それからはトントンと進んでいった。

 先生も事情を理解してくれたし、クラスメイトも変に気を遣わないで接してくれた。

 元々、普通と違う能力を持っている僕たちアルファーは、どこかで心に傷を持っている人もいるため、このような時の理解は凄く早かった。

 だから、本当の自分の一日目は凄く自然に生活することができた。



 そして、気がつけば放課後になっていた。

 日直は一週間続くので、今日も僕と美保ちゃんは教室の掃除をしていた。

「ねえ、山野君、昼休み髪の毛切りたいとか言ってたよね」

 また唐突に、美保ちゃんが話しかけてきた。

「えっ・・・うん、ちょっとこれは伸びすぎたし、ここは思い切って短くしたいんだ」

「じゃあさ、私が切ってあげようか?」

「えっ・・・それってどういう事?」

 僕は美保ちゃんに驚かされてばかりだ・・・

「私の実家床屋さんだから、私小さい頃からお父さんに鍛えられてたし、お店には出て切ったことは無いけど、家族の髪はみんな私が切ってるのよ」

「そうだったんだ・・・」

 僕は自分が小学校頃のことは本当に覚えていないんだと、少しため息をつきたい気分になった。

「あの・・・無理だったら別に良いんだよ」

 僕のうかない顔に心配して答える美保ちゃん。

「いや、違うんだ・・・とっても嬉しいよ。部活終わってからでも良いの?」

「うん」

 美保ちゃんはにっこりと笑って答えると僕も笑顔でそれに答えた。



 部活も終わり、寮に帰ってから少しすると美保ちゃんが道具を持って部屋にやってきた。

「それじゃあ、早速切っちゃうね」

 そう言って美保ちゃんは僕に散髪用のエプロンを掛ける。

 そして、どんな髪型が良いのかなど少し話した後、シャキシャキをハサミを進めていく。

「城山さんはいつから気がついていたの?」

 今度は僕が唐突に質問した、いつも美保ちゃんに先に話のペースを持ってしまうから・・・

「それって、何についてこと?」

「えっと・・・僕が小学校の時クラスメイトだったやつだって気がついた事」

 僕は少し考えたからそう答えた。

「そんなの、初めからだよ。このクラスに入って名簿を見た時から・・・と言うより私は山野君が気づいて無かったのが、少しショックだったよ・・・」

「うっ・・・ごめん」

 なんだか、やはりペースは美保ちゃんらしい。

「いいよ、思い出してくれたんだったら・・・」

「うん、ありがとう。でも、本当にお礼が言いたかったんだよ、今回僕が本当の自分のとして踏み出せたのも城山さんのおかげだし、昔も僕のことイジメっ子から助けようとしてくれたし・・・本当にありがとう」

 その言葉を聞いてハサミが止まり、美保ちゃんはまた話し始めた。

「やっぱり、覚えてなかったんだね。そうだよね、覚えてたらお礼とか言わないよね、実は、覚えてないかもしれないけど、山野君がいじめにあったの私が原因なんだよ」

「えっ・・・それってどういう事」

 僕は驚いた・・・正直、いじめられた原因なんて考えたこと無かったし、それにそれが美保ちゃんのせいだなんて・・・

「うん、実は小学生の頃いじめられてたのは私だったの・・・それで、毎日のようにいじめられててもう学校行きたくないって思ってた、でもある日、イジメを止めに入ってくれるクラスメイトがいたの、いじめられてる私の前に出て(もうやめろっ!)って言ってくれたの、凄く嬉しかった、そしたら次の日から私はいじめられなくなったけど、その子がいじめられ始めちゃって、私それでも止めることできなくて・・・一回だけ止めに入ったけど・・・それでも止められなくて、逆に自分が痛い目見たから、もう怖くて・・・・なに・・・もできな・・・くって」

 美保ちゃんはもう泣き始めていた。

 ポタポタと美保ちゃんの涙は僕の髪に落ちて少し冷たかった。

「気にしないでよ、ずっと前の事だよ」

 そう言いながらも、僕は必死に記憶を振り返っていた。

「ひどいよね、山野君が能力使い続けなければいけなくなったのも、私のせいなのに、生意気に本当の山野君が好きだとか言っちゃって・・・本当・・・に・ごめん・・・なさ・・い」

 美保ちゃんは必死に謝ってくれる。

「別に、いいよ。あんまり覚えてないし・・・それに、本当に自分が好きって言ってもらえて、僕すごく嬉しかったし、今こうしていられるのも城山さんのおかげなんだから、だから泣かないで・・・」

 そう言って慰めると「うん」と言う言葉だけ返して美保ちゃんはまた髪を切り始めた。



「はい、終わり〜」

 髪を切り終える頃には二人とも冷静になれていた。

 美保ちゃんの持つ鏡を見て「お〜格好いい」と自分の姿に感想をのべる僕。

「まあ、モデルが良いからカットも楽だったよ」

「ははっ照れるな」

 それからは、僕も美保ちゃんも笑いながら色々はなす事ができた。



 そして、美保ちゃんが帰る時間となった。

「それじゃ、また明日ね」

「うん、最後にひとつ聞いて良いかな?」

 そう、僕にはどうしても聞かなければならない事があった。

「なに?」

 美保ちゃんは笑顔で僕の顔を見つめる。

「あの、本当の山城君が好きって言うのは、僕がもし城山さんの事を好きならば付き合っても良いって事なのかな?」
 僕は、城山さんが好きだった、きっと小学校の頃から、そして、昨日まで忘れていたこの気持ち、そして、確かめたかったこの気持ち、言葉にすることで確かめて、今確信した。

「それって、告白?」

 美保ちゃんは悪戯に笑って答える。

「うん、今解ったんだ、僕は城山さんと付き合いたいって事に」

 僕が真剣に答えると、笑っていた美保ちゃんは突然涙を浮かべて、そして僕に抱きついてこう答えた。

「私も、ずっと景一君の事が好きだったよ」

「僕もだよ、ありがとう美保ちゃん」

 僕も美保ちゃんをしっかりと抱き寄せると、僕達はずっと前からのカップルのように口づけを交わした。

 夜空に光る星々は暗い夜を明るく照らして、まるで新しい一歩を踏み出した僕達を応援しているようだった。







『あとがき』



 こんにちは〜ひだまりです。

 ひだまり小説の初の続編です。いかがでしたか?

 今まで、地味に話が繋がる物などはありましたが、今回は完璧に続編で完結する事ができました。

 ってか元々ショートショートの作品を書くつもりで始めたこのHPもここまで来るとそれどころでは無くなってきますね〜

 完全に恋愛短編小説ですわ!!

 まあひだまりの中でブームなのでお許し下さい。

 もちろん、ショートショートもまだまだ書いていきますので、まあジブイお茶と甘いようかんを味わうように、この小説を読んでいただければ幸いです。

 それでは、この話のエピローグ的な物を書いてみたいと思いつつたぶん書かないであろうひだまりでした!!



 最後まで読んでいただき、有り難うございました。

 次回の作品で会いましょう〜♪



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