『ネバーランド』



 無限に広がる宇宙の海。

 数々の星々がそんな海の島であるなら、地球なんてちっぽけな島である。

 つまり、宇宙は広いということだ。



 ここは、グラウストラ星系第四惑星実験星(h0029)である。

 無機質なこの星には、人工的に作られた研究所が大半を占めていた。

 またこの星の大気には特殊な成分が含まれており、それがロストラル星人にとって老化を極度におさえるという効果をもたらすのだ。

 本来ロストラル星人の寿命は八十年とされているが、この星にいることで寿命は約三十倍になった。

 つまり、年をとるスピードが普通より三十倍かかるのだ。

 しかし、この星には数人の研究者と数人の警備員そして、41人の子供達しかいなかったのだ。

 もともと、ロストラル人はこの星の住人ではない、ロストラル人は第三惑星である惑星ロストラルの住人であり、今もなおその星で多くのロストラル人が暮らしている。

 この星に決められた者しかいないのは、この星で行われている実験が関係する。

 その実験とは、特殊能力を持つ子供(アルファーチルドレン)の研究・調査・そして特殊能力の兵器化である。

 ロストラル人の人口の百万分の一はこのアルファーチルドレンとされている。

 アルファーチルドレンは生まれて約十歳になった時、普通では考えられない力、つまり特殊能力が使えるようになる子供の事である。

 しかし、アルファーチルドレンは成人する、つまり二十歳をむかえるとその力は弱まりいつしか使えなくなってしまう。

 そこでロストラル政府は考えたのだった。

 その当時、発見したばかりの年をとるスピードが異常に遅い星(現在の実験星h0029)に研究所を作り、長い期間アルファーチルドレンを研究しようとしたのであった。


 ここは研究所の中にある人口的に造られた森。

 実験体の子供達が自由時間に唯一遊べるところである。

 そんな森の茂みで・・・

「ウエンディーの力が必要なんだ・・・」

少年は少女に頭を下げる。

「やめてピーター、頭を下げられても私困るわ・・・」

 ピーターより少し背の高いウエンディーはあわてて少年の目の高さに合わせた。

「いや・・・ウエンディー僕たちはもう我慢できない・・・それに研究もだいぶ進み人を簡単に殺すことのできる兵器が出来上がったと言うじゃないか」

 ピーターの目には涙がたまっていたが、その目の意思は強く真剣そのものであった。

「たしかに、兵器が完成したのは知っているわ・・・でもそれは、いつの日か来る危機のためのモノであって人を殺すためのモノではないわ」

 ウエンディーはピーターを優しく諭した。

「じゃあ、ウエンディーこれを見てくれ・・・」

 そう言ってピーターは近くで遊んでいたもう一人の少年を呼んだ。

「彼は、ユーリといって自分の目で見たものや音をまるでそこにスクリーンがあるかのように映し出せる能力を持っているアルファーだ」

 ピーターはそう言いながら少年の頭をなでた。

「それなら知っているわ、前からユーリ君とはお友達なのよ」

 ウエンディーは少年に小さく手を振った。

 少年は少し恥ずかしそうにしながら手を振り返す。

「それなら話は早い、じゃあ彼の見たものを見てやって欲しい・・」

 ピーターはその言葉の後、ポンッと少年の肩を叩いた。

 少年は軽く頷くとその能力を使い始める。

 見る見るうちにピーターとウエンディーの前にはスクリーンができていく。

 そこに映像が映し出された・・・

 それにはとぎれとぎれだか音声も入っていた。



 そこは研究所の小さな個室。

 そこで研究者二人がなにやら密談をしている。

「ついに完成したか・・・」

 一人は研究員を束ねる研究所の所長、ウエンディーの父である男だ。

 そしてもう一人は研究員のなかでも特に才能がひかる若い男。

「そうです、これであの星は私たちのものです」

 所長は口ひげを触りつつ研究員に尋ねる。

「では実際にその成果を見せてもらおう・・」

「解りました、では実験サンプルをここに・・・」

 研究員の言葉にベッドにくくりつけられた一人の男が個室に運ばれてきた。

「彼は私たちの作戦に反対の意を唱えました、そこで実験サンプルとして選びました」

 研究員はニヤリと嫌みな笑顔を見せる。

「それは、良いサンプルを見つけたな」

 所長もニヤリと笑った。

「では実験を開始します」

 そう言って研究員は大きな鞄から拳銃を取り出した。

 そして、ベッドにくくりつけられた研究員に向け引き金を引いた。

 拳銃が少し光ったと思った次の瞬間には、ベッドの上には誰もいなくなっていた。

「すばらしい、すばらしいできではないか!」

 所長は驚き、声を荒げる。

「これが、人間を粒子レベルで破壊する拳銃の威力です」

 研究員はニヤリとまた笑った。

「これで、政府も私たちにはたてつけまい」

 所長が最後にもっとも嫌な笑顔を見せた。

 そして、映像が途切れた・・・



「どうだいウエンディー、これが現実なんだ・・・」

 ピーターはそう言いながら、また少年の頭をなでた。

 少年はウエンディーに小さくお辞儀をすると今まで遊んでいた場所までかけだして行った。

「実は、だいたい予想はしていたの・・・」

 ウエンディーはうつむきながら話した。

「そうか・・・じゃあ僕たちの作戦に参加してくれるね?」

 ピーターもうつむきながら答えた。

「止められないのね・・・」

「うん、僕たちは実験体じゃないんだ・・・ウエンディーには僕たちと、所長である君の父の板挟みで辛いだろうけど協力して欲しいんだ」

 そして、すこしの間の後ウエンディーは答えた。

「わかったわ、協力するわ・・・それに父が間違っている事は、私が一番解ってる・・・」







 そして作戦は開始された・・・

「大変よ、大変なの警備員さん!」

 ウエンディーは警備員に駆け寄った。

「お嬢様そんなに急いでどうしたのです?」

 ウエンディーは長距離を走ってきたかのように肩で息をしている。

「あの・・実はキスリ君がすごくおなかが痛いって言ってるの、早く行ってあげて・・・」

「そうですか、なら他の者に知らせてから急いで参ります、その間お嬢様は待っていてくれますか?」

 警備員の言葉に慌ててウエンディーは言葉を返す。

「他の警備員さんには私が知らせておくから、早く行ってあげて本当に痛そうなの!」

「そ、そうですか、解りました。ではお嬢様頼みましたよ」

 警備員はウエンディーの必死の姿にそう言い残すと、子供達のいる牢屋へと走った。



「痛いいいぃ! お腹があぁぁぁ!」

 警備員はお腹を押さえて痛みを訴える子供をすぐに見つけだした。

「大丈夫か!?」

 と一声かけ慌てた様子で子供のいる牢屋に入った。

「痛いんです、お腹がすごく・・・」

 と子供は警備員に答える。

 しかし、その言葉が先ほどとは違い冷静なので警備員は少し驚いていた。

「そうか、さっきまでもの凄く痛そうにしていたから、どうしたかと思ったが、だいぶ平気そうだな・・・」

 警備員がそう言い子供の体に触ろうとした時、その手が子供の体をすり抜けたのだ。

 次の瞬間、バタンと牢屋の扉が閉まり鍵がかかる。

罠だ!

 しかし、そう思ったときにはもう遅く、腰にあるはずのトランシーバー・麻酔銃・そして牢屋の鍵さえも抜き取られていた。

 そう、彼は自分の分身を投影する能力を持つアルファーチルドレンだったのだ。

 警備員は防犯カメラに届くように叫んだ。

「おい! 罠だ! こいつら何かしでかすつもり・・・だ・・・・・・」

 そう叫んでいる途中で子供に奪われた麻酔銃で眠らされてしまった。

「まあいくら叫んでも、その防犯カメラは先週壊したから映らないんだけどね」

 と得意げに少年は拳銃を吹くマネをした。

 そして、ポケットから一枚の地図を出した。

 その地図には、防犯カメラの死角が細かく描かれていた。

 少年はチョロチョロと上手く死角を使い、ある牢屋までたどり着いた。

 その牢屋には特殊な電波が流れており、その牢屋のなかでは特殊能力が使えないようになっている。

 その中にはまだ十歳に成り立ての女の子がいた。

「ルミヤちゃん、今鍵を渡すから上手くスイッチを切るんだよ」

 少年はそう小声で話し、女の子のいる牢屋に鍵を投げ入れた。

 女の子は見事に鍵をキャッチすると少年に笑顔を見せた。

 そして、動く防犯カメラの死角を上手く使いタイミング良く扉に鍵を差し込んだ。

 その後元いた場所にすぐ戻り座る。

 もちろん、カメラに映っても違和感のないようにするためだ。

 そしてまたタイミング良く鍵の扉まで行き、今度は完全に鍵を開ける。

 牢屋に流れていた電波は消えていく。

 女の子は牢屋を飛び出し少年に近づく。

「どうだった?」

 不安そうな女の子に対して少年は頭を優しくなでる。

「ばっちりだ、後は俺の仕事だ」

 そう言って少女の分身を牢屋の元いた場所に投影した。

「すご〜い、私そっくり!」

 女の子は笑顔だ。

「これで数時間は稼げるな」

 少年も笑顔を見せる。

 そして女の子は少年の手を握りしめると特殊能力を使った。

 その場から、少年と女の子の姿は見えなくなった。

 女の子には触れているものを見えなくする能力があった。



 そして、次々と牢屋は開け放たれた。

 実験体として牢屋に閉じこめられていた40人の子供達は牢屋をいっせいに飛び出した。

 それからは、早かった。

 研究員も警備員も束になったアルファーチルドレンにはかなわない。

 次々と研究員も警備員も麻酔銃にやられていった。





 そのころ、ウエンディーは父親である所長と二人でいた。

「クソガキどもめ! よけいな事をしおって!」

 所長はイライラとトランクに荷物を積めていた。

「まあいい、この銃さえ完成していれば星にもどりいくらでも何とかなる」

 そう言ってもう一つのバックを手に抱えた。

 それは映像で映し出されたあの恐ろしい銃が入ったバックだった。

「ウエンディーそろそろ行くぞ!」

 所長はウエンディーに声をかけた。

 しかし、ウエンディーはうつむいて答えた。

「行かないわ、お父様」

 所長は、驚いて聞き直す。

「行かない? どういうことだウエンディー!」

「私は星には帰りません、そしてお父様のお持ちになっているその銃も星に持っていくわけには行きません」

 そう言うとウエンディーは所長の持っている鞄を指さした。

 そして意識を集中し能力を使う。

 その瞬間、その場から鞄が消えてなくなった。

「どっ!? どういうことだ!」

 慌てる所長に向かい冷静に答えるウエンディー。

「お父様は気づいていなかったでしょうけど私アルファーチルドレンなのよ、能力は自分以外のものなら何でもテレポートさせることができるの、ちなみにさっきの鞄は宇宙のどこかにテレポートさせておいたわ」

「きき、キサマ!」

 ウエンディーの言葉に逆上した所長は腰につけた麻酔銃をウエンディーに向けた。

 そして、所長は迷わず引き金を引いた。

 パンッという音と共に、その場に所長が倒れ込んだ。

 ウエンディーは拳銃の弾をテレポートしていた。

 そして、そこにピーターが現れた。

「銃声が聞こえたから慌てて来てみたらウエンディーじゃなかったんだね」

 ウエンディーは何も言わず頷いた。

 そして、ピーターはウエンディーの手を握ると彼の能力である、自分と自分が触れているものをテレポートさせる力を使い、いつもの森へテレポートした。





その後、子供達により警備員・研究員そして所長は冷凍睡眠状態で小型船に乗せられ星から発射させられた。

そして、森に集まった子供達はウエンディーとピーターを囲んでいた。

「ウエンディー最後の仕上げをお願いしたい」

「わかったわ」

 そう言ってウエンディーはありったけの力を込めて能力を使った。





 その日、グラウストラ星系第四惑星実験星(h0029)はそこから姿を消すこととなった。





 力を使い果たして、ピーターに抱きかかえられるウエンディーに子供達がかけ寄った。

「すごいや、ウエンディー!星を丸々一個テレポートさせちゃうなんて!」

「そうだよ、ウエンディー、すごいよ!」

 そう言い集まる子供達の頭をウエンディーは優しくなでた。

「そんなことないわ・・・あなた達もえらかったわ」

「うんん、ウエンディーの方がすごいよ」

「さすが、僕たちのお母さんだ」







「ありがとう、お母さん」

 ピーターはウエンディーにそう声をかけた。







 そして、その星は子供達によりネバーランドと名付けられた。






『あとがき』



 最後に解説などを・・・

 このお話『ネバーランド』はその名の通りひだまり風のピーターパンなんです。

 初めは、いつまでも子供でいられる世界「ネバーランド」に疑問を抱いたのが始まりです。

 どうしていつまでも子供でいられるのかって事に、勝手に疑問を抱いたのです(笑)

 それなりに理由があった方が、面白いんじゃないかって思ったんです。

 それが作品になり、このような形になりました。

 読んでくれたひだまりの友達には、この作品は長編向きだとよく言われました。

 確かにキャラが数や展開が表現できてないのですよ。

 ですから、それを再編集して長編として書き直したいと密かに思ってみたりしています(爆)



 最後まで読んでいただき、有り難うございました。

 次回の作品で会いましょう〜♪


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