『空』
僕はずっと隔離されている・・・
全面不思議な硝子でできている牢屋・・・
内側からは外側は見えないが外側からなら内側を綺麗に透し見られるらしい。
そんな牢屋に物心ついた時から入れられてほとんど外に出してもらった事はない。
日常のありとあらゆる事は基本的に出来るようになっていて、食事は三食決まった時間に運ばれる。
それに、欲しい物があれば多少の制限があるが、言えば牢屋に運ばれてきた。
初めは満更でもないと感じていたが、そんな気持ちは長く続かない。
外に憧れを抱き、日々見たことない空を眺める夢を見ていた。
僕には不思議な力があるらしい・・・
本来人間にはない第六感。
魔法と言う力。
僕は空中に浮くことが出来た。
そのためこの牢屋も天井が高くなっている。
しかし最近は、そんなに力を使ってはいない。
僕の夢は大空を飛び回る事。
こんな狭い硝子の牢屋を浮く事ではない。
この牢屋の外側にいる人間は僕のこの力を必死に調べているらしい・・・
僕に麻酔をうち眠らせてから他の部屋に連れられて行くとき、おぼろげながら白衣の人間がそんな話をしていたのを覚えている。
ある意味、こんな力があるから牢屋に入れられているかもしれない・・・
ある日、僕は初めてこの牢屋から脱走を試みることにした。
牢屋の扉を開けて食事を持ってくる人間に向けて、子供の頃からの遊び道具だった野球のボールを全速力で顔面にぶつけた。
人間は鼻から血を流し一瞬ひるんだそのスキに勢いよく外へ飛び出した。
それからは、何も考えず無我夢中で外の光を目指した。
途中で何人かの白衣の人間が僕を捕まえようとしたが、以外と簡単に逃れることが出来た。
とにかく走り続け、一つの光が見えた時、僕はすぐに解った。
この光は外から漏れる光である事に・・・
ついに、僕は初めて空を見る。
雲が流れ太陽が眩しかった。
風が木々を揺らし砂が頬を叩いた。
土の香りが体に流れ込む。
そして、僕は夢を叶える。
僕はいつものように地面を蹴り、飛び上がろうとした。
しかし、宙に浮くことが出来ない、まるで重い鉛を全身に背負っているような感覚だった。
もう一度やってみたが、やはりうまくいかない。
それから、何度繰り返しても結果は同じだった。
そのうちに、白衣の人間が現れて僕は衝撃の事実を知った。
その昔、人間は僕と同じように不思議な力を皆持っていた。
その力は空を飛ぶだけでなくありとあらゆる事が出来たと言う。
しかし、そんな万能な力が全て善のために使われる事はなく、各地で戦争が行われるようになった。
力を消し去り戦争を止めるため、ある科学者が世界にSANSOというウイルスを放ったらしい。
そのウイルスは次々と感染し世界から戦争が消え人間は力が使えなくなった。
そんなある日僕が生まれたらしい。
本来人間の生きるために吸う、空気の多くに含まれているウイルスは妊娠中に体内で母から子へ感染し、子は生まれた時すでにウイルスに犯されていた。
しかし、僕はそのウイルスにどういうわけか犯されていなかったらしい。
そこで、人間は僕をウイルスのない無菌の部屋に入れ僕の力やウイルスの治療法を調べていたのだった。
僕はそれから数日後、初めて家族と対面した。
これからは、家族と家で暮らせるらしい。
両親は優しく妹もいる。
今は、自由に外へ行くことだって出来る。
制限のない自由な生活に僕は幸せを感じていた。
それから、40年の月日が流れた。
僕は会社の屋上でたばこを吸っていた。
僕はあれから勉強をして就職しサラリーマンになった。
結婚し娘もできた。
そして今、仕事では上司からは怒鳴られ、部下は役立たずばかり。
家庭では、妻は口うるさく、娘に至っては最近顔すら見ていない・・・
たばこを吸い終わり、仕事に戻ろうと振り向いた時太陽の光が僕を刺した。
眩しいと思い手をかざすと手の下から美しい青空が見えた。
しかも、指と指の間から漏れた光がそれを盛り上げる。
そう言えば最近、空を見ていない気がする・・・
『あとがき』
『短編を繋げて長編にしちゃおう作戦』のもう一つの作品です。
後から書いた作品なので平和を先に読んでいただけると面白さも倍増すると思います。
作品の解説としては今回新しく「かきかっこ」のない作品というのを一つのテーマにして書きました。
どうでしょうか?
ひだまり的にはこれはこれで作品になったと思います。
最後まで読んでいただき、有り難うございました。
次回の作品で会いましょう〜♪
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