『雀がくれ』
桜は先日の雨と風で散ってしまったが、まだまだ春の盛り。
新しく芽を出した草花達はその身長をだいぶ伸ばしていた。
春の抱擁のような光は、大地優しく照らし、日溜まりでは鳥たちが元気に遊んでいる。
特に雀の兄妹達はお互いにじゃれ合ったりして春を満喫しているようだ。
私はそんな麗らかな春に誘われるがまま部屋の布団に倒れ込むと、日頃の疲れを癒すべく二度寝としゃれ込もうとしていた。
春眠暁を覚えずとは言ったものだ。
ドタッドタッドタッ・・・
「ねえっ、お母さん!お父さんは?もう起きた?」
寝室で寝ている私にでも届くような、この厚い壁をも通す高い元気な声。
「まだねて・・・だ・・・静かにしましょうね」
今度は聞き慣れた優しい声、声も小さく言葉もとぎれとぎれしか聞こえない。
「そんな〜だってもう九時だよ〜、お寝坊さんだよ〜、すずめが起こしてくる〜!」
元気な声。
「しょうが・・でしょ・・父さん・・・お仕・・疲れてるんだから」
優しい声。
「ぶ〜っ!だって昨日遊んでくれるって約束したもん!」
元気な声。
「お昼・・・にすれば・・・・もう少し・・・寝かせて・・・」
優しい声。
元気な声。優しい声。元気な声。優しい声。元気な声。
ドタッ
元気な声。元気な声。
ドタッドタッ
元気な声。
ドタッドタッドタッタタタタッタタタ!
ふ〜もう寝ていられなくなってしまったようだ・・・
そう思って体を起こそうとした時、予想通り寝室の扉は開け放たれ、そこから娘が私に向かって飛びかかってくる。
娘は私が抱きかかえると、面々の笑みを浮かべた。
「お父さんおはよう!」
我が家の雀も春の光を浴びて元気一杯である。
その後、朝食をとり娘と外に出かけた。
外に出るとやはり、そこには麗らかな春が広がっていた。
見れば草花の周りを雀たちが飛び回っている。
「お父さん!何して遊ぶ?」
「う〜ん、雀がくれか・・・」
私はその様子を見て思わず返事を忘れて口ずさむ。
「お父さん?かくれんぼ?」
娘は私の顔を覗き込んだ。
「はははっ、隠れん坊じゃないよ。『雀がくれ』さ」
「すすめがくれ?」
娘は良く解らないと言った様子だ。
「あれを見てごらん」
そう言って私は草花の周りで飛び回る雀を指さした。
「あっ!すずめさんだ〜」
「そうだね、お前の好きな雀さんだね」
「うん、私と同じ名前〜それにすごく可愛い〜の」
「そうだね可愛いね〜、でな、その雀さんお空飛んでない時、土の上歩いてる時草に隠れちゃうだろ?」
娘は雀を少し見てニッコリ笑い。
「すずめさん隠れん坊してるね〜」
「そうそう隠れん坊、そう言う様子の事を『雀がくれ』って言うんだよ、春の草花がここまで大きくなったって事を表す春の季語だね」
「き・・ご?すずめ分かんない〜」
娘には少し難しかったようだ・・・
「はははっまあ、とにかく草花も生長したって事だよ」
娘は少し考えて。
「う〜ん、すずめ隠れん坊したい」
と笑って答えた。
「そうか隠れん坊か、そうだねじゃあやるか〜」
「じゃあお父さん鬼ね〜十数えて〜」
そう言うと元気に娘は笑顔で走っていった。
私はゆっくり数を数え始めた。
「も〜い〜かい?」
「ま〜だだよ」
「も〜い〜かい?」
「も〜い〜よ〜」
私は娘を探し始めた。
しかし、すぐに木の後ろに娘を見つけることが出来た。
なぜなら、まだ細い春の若木では娘の体全体を隠すことができず、見えてしまっていたからである。
そんな娘を見て、私は『雀がくれ』に草花だけでなく雀の成長も感じたのだった。
「すずめみ〜つけた!」
そして春の風は暖かく私達親子を包んでいた。
『あとがき』
何ともまあ、こうも季節をばりばり無視した作品を書けるものだと自分に感心してしまうくらいの春のお話w
まあ、ぶっちゃけた話し『雀がくれ』という言葉を季語辞典で見つけてすごく感動したから、無理矢理でも使おうと思って作った作品なので仕方が無いと言えば無いかも・・・w
それにしても、日本にはこんな美しい言葉が沢山あるんだと感心します。
とくに季語辞典等を読んでいると言葉自体について考え直したくなります。
やはり風景描写など昔ながらの言葉や使わなくなった季語なども使えるようになるとすごく良いかもw
そうでないとソンだよね〜せっかく日本語使ってるんだもん〜♪
最後まで読んでいただき、有り難うございました。
次回の作品で会いましょう〜♪
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