『ウェザーズ・ハート』



 その日、太陽は程良い雲に包まれていた。

 各地で満開の桜は風に乗って舞い、心地よい春を演出していた。

 しかし、そんな麗らかな春の日が『そこ』にだけは訪れてはいない。

 太陽の存在を否定するかのような厚く黒い雲に覆われ、

 『そこ』は涙の雨に濡れていた。





 西暦2150年

 人間達はこの地に理想郷を築き上げた。

 科学の進歩で便利な街。

 医学の発展で安全な街。

 戦争さえも、街のいない場所で依託され無意味な殺し合いもなくなりつつあった。

 人間達は平和で安全なこの地を作り上げた自分たちを『もっとも進化した存在』と褒め称えた。

 しかし、数年前からこの地に生まれる新生児の中にα(アルファー)と呼ばれる第二次世代人類が生まれ始めたのだ。

 α達は通常では考えられない特殊能力(第六感)を持っているのだった。

 人間達は喜ぶ者、軽蔑する者、様々だがαは少しずつだがその数を増やしていた。

 この物語の主人公『天気心冶』(アマキ・シンジ)もそんなαの一人であった。





 ここは、何処にでもありそうな普通の体育館。

 各地の体育館で行われているであろう行事は、この体育館も例外なく行われていた。

 そう、こんな春の麗らかな日には例外なく・・・


 しかし、この体育館だけは違っていた。


 まるで周りから切り離されたように、この体育館一帯だけは厚く黒い雲が太陽を隠し、冷たい雨が降り注いでいた。





(・・・つまんねーなぁ)


 心冶は心の奥で呟いた。


 心冶のいる場所はとある学園の体育館。

 体育館では厳かに入学式が行われていた。

 しかし、数分前から降り出した雨が体育館の屋根を叩き、その厳かな雰囲気を遮っていた。

 雨は局地的なもので体育館を中心にして1q四方しか降っていない。

 その他は、予報通りの晴天で入学式日和だった。


 雨は強さを増した。


 辺りとの天気の違いは歴然としているのだが・・・


(はぁ〜なんてつまらないんだ・・・)

 心冶は再び呟くと小さく体を動かして椅子に座り直した。

 しかし、式はそんな心冶に目もくれず進行していく。


 式も中盤に差し掛かり、学園長の挨拶が始まった。


「ご入学おめでとう新入生諸君。諸君らは今日からこの学園で日々の生活を過ごしていくわけだが、その生活をよりよい物にして貰いたい。そのためには、諸君らの持つ能力を十分に知り、今まで以上にコントロールしていただきたい、それがこれからの未来を導くことになると私は考えている。そもそも、能力とは・・・・・」

(ん?なんだ、この園長・・・能力、能力ってまるでアルファーに話してるみたいじゃんか)

「みたいじゃなくて、話しかけてるのよ」

 突然隣に座っていた女の子が心冶の方を向き話しかけてきた。

(おいおい、なんだよいきなり・・・急に意味解らないこと言ってやがる)

「あなた、学園の事本当に何も知らないのね」

(まだ、何か言ってやがるこの女・・・まあよく見ると結構可愛いのにこれじゃあ台無しだな・・・とにかく、相手にするのはやめよう・・・)

 しかし、女の子はまだ話しかけてくる。

「相手にするのはやめよう、だなんてひどいんじゃない?」


(えっ!?なに・・・)


「あなたまだ気づかないの?しっかりしてよね天気心冶君」

「なんで、お前が俺の名前を知ってる!?」

 心冶は驚いて声を荒げた。

 式が中断するほどではなかったが、周りの参加者達がこちらに注目しざわめく。

 女の子と心冶は慌てて目をそらした。

 少し経つとこちらを見ていた参加者達も前をむき直し落ち着きを取り戻した。



「ちょっと、ビックリするじゃないいきなり大きな声出して」

 少し怒ったように女の子は言う。

「何言ってる、ビックリしたのはこっちだよ、何で俺の名前を知っているんだ」

 心冶はさっきより小さな声で答える

「は〜ぁ、まだ解らないの?私はテレパシーであなたの名前を知ったのよ。私もアルファーなの、それにこの体育館にいる学生はみんなアルファーなのよ」

 その言葉で心冶は自分のおかれている状況に気がついた。

 心冶が慌てて返答しようとすると女の子が先に結論を言ってしまった。


「そう、あなたの思った通り、この学校は特殊な能力を持った人アルファーが集まる学校よ。」


 その言葉を心冶が聞いた直後、雨は少しずつ止み始めた。





 その後、心冶たちは教室へと案内された。

「しかし、驚いたなー、全然聞いてなかたから、こんな学校だなんてなー」

「まあ仕方がないわね。お母さんに勝手に入れられたんでしょ」

 女の子はまたも心冶の話してない事を言い当てた。

「ったく、勝手に人の心読むなよ」

「あっ!ごめん、私つい癖で」

「まあいいけど、あんま良い気分はしないぞ」

「ごめん、私もあんまりこの力使いたくないんだ、でもね・・・私目が見えないから人の思っている事や、見てる事テレパシーで読んで行動してるんだ・・・だから、多少は勘弁して」

 女の子は沈んだ顔で心冶に話した。

「だーめだ。他のやつはその話を聞いて同情するだろうけど、俺は同情しない、それを克服するためにこの学校に来たんだろ?それに、おれがお前の事可愛いなって思った事もばれてんだろ?」

「えっ!」

「まあどーせ、ばれてんだから言ったけど、こういった事もあるから、俺にはあんま使わないでほしい」

「えっえええっ!そんな事知らなかったよ、私・・・」

 女の子は驚き顔を赤らめた。

「なんだって、俺はてっきり・・・」

 心冶の顔も赤くなった。

「恋愛感情などの内に秘めた思いは読みにくいから・・・」

「ばかっ!そういう事を早く言え!いきなり変な事言っちまったじゃねーか」

「でも、うれしいよ。今までそんな事いってもらった事なかったから・・・この能力のせいで友達できなかったし」

 女の子は赤くなった顔を心冶に見せないように下を向き答えた。

「まあでも、悪くない能力だな、俺よりか全然ましだと思うぞ」

 心冶も目をそらしながら答える。

「そうかなー心冶君の能力好きだなー、なんか神秘的だし」

「おまえ、また俺の話してない事を・・・」

「あっ、ごめん・・つい・・・」

 女の子はペコリと謝った。

「とりあえず、その癖直せよな『心交・光』(シンカイ・ヒカリ)」

 心冶はニヤニヤ笑う。

「えっ!まだ私の名前いってないよ。どうしてわかったの?」

「教えてほしい?」

「うん!」

「鞄に書いてあるよ!」

 心冶は光の鞄を指差した。

「驚いた!テレパシーも使えるのかと思ったよ」

「それはないな。俺は自分の能力だけで手一杯だ」

「でも心冶君の能力、良いと思うよ私」





「そうか?・・・ただ心境が周辺の天気に現れるだけだぞ?」

 そう言って心冶は小さく笑った。





 外は気持ちの良いくらいの晴天だった。






『あとがき』



 このお話『ウェザーズ・ハート』は、元々ひだまりが高校生の時書いた作品なのです。

 それを編集して去年(2003)の文化祭の短編集(ひだまりの森)に載せたところ、なかなか評判が良く、自分自身で驚いてしましました。

 確かにそう言った意味では、原点であり最も『ひだまりノベル』らしいものだと考えています。

 なんだか、文章もおぼつかないフラフラとした作品ですが、加工もされてない原石の良さが伝わればと思います。



 最後まで読んでいただき、有り難うございました。

 次回の作品で会いましょう〜♪


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